チャーハンのスープと米朝の『七度狐』

 自分でもよく分からない衝動だなと思ったんだが、「チャーハンについてくるスープ」が急に飲みたくなってしまった。次第に抑えられなくなるその気持ち。なんなのこの情熱。一路渋谷駅前の「ラーメンやさん」へ。うーむ…望みどおりの味わい。これよこれ。フツーにおいしい。この「フツー」が大事。あの醤油味。あの匂い。どっかの「こだわりのチャーハンスープ」ではダメなんである。いやこの店だってこだわって作ってるんだろうが、セオリーがあんのかってなぐらい「チャーハンのスープ」ってのは日本津々浦々で「あの味」ってのがあるんではないか。私が小さい頃から「あの味」は「あの味」だと思う。なんか凄いことに思えてきた。きょうも「あの味」に出会えて、幸せだった。



○下ごしらえには落語を vol.4

 きぬさやのスジ取りなんかしつつ、落語をよく聞いています。いーんですよねえ…落語と下ごしらえの相性って。これホント。単調な作業であればあるほどいい。最近ずっとこれです。

 この日は桂米朝さんの『七度狐』を聴いてました(『特選米朝落語全集』第25集)。いやー…面白いなあ! 好き好きこういう噺。
 キツネやタヌキが人を化かすなんて話、特に好物なんだ。ワクワクする。タヌキだと他に『狸の賽』とか、あとは天狗が出てきたり(『天狗捌き』)、幽霊が出てきたり(『お化け長屋』)、ジャパン・ファンタジーが落語にはいっぱい。
 人間と「それ以外」の境界線がフリーな感じなんですよね。「あ、出た」って感じで蠅とかネズミとかと変わらない感じがある。もちろん怪談系もあるけれど。
 キツネを怒らせてしまった旅人二人がひたすらに化かされるという、本当にそれだけの筋。本来はタイトルどおり7回化かされたらしいけど、現行では絞られた演出になっているようです。
 泥や藁をごちそうと化かされる…なんていう「だましの古典」を堪能しました。しかしこの手の話、変なクスリでもやった人の幻覚集だったら怖いなあ、なんて一瞬思ったり。

「あんたらなーにやってんのや!?」
 米朝さんはこの「なーに」というタメてのばす言い方が特におかしい。キツネが怒って「おのれ人間どもめ」的なセリフを言うと鳴物がドロドロと入るんだけど、この芝居がかった感じの物言いも本当にうまいなあ。歌舞伎をみているような気持にもなったり。
 米朝さんを聴いていると西の言葉ってなんて「音楽的色彩」の豊かな言葉だろうかと思う。