麻布十番『ふくだ』を堪能

 悦楽、というと随分と大げさな言葉に思えるけれど、いまこのお店を訪れたことを思い出して浮かんでくるのは、悦楽という言葉なのです。
 食の悦び、食の楽しさ。
 美味しさに触れるだけではなく、「客人を迎え入れる」という心に触れられたうれしさ。

 ある編集さんが絶賛してらして、そのあまりの推しようにお昼のコースを予約してみました。

 うーん………行って、よかった。

 こちらのお食事をいただき、もてなしていただいて、なんというか、私のすれた心を少し繕ってもらったような思いです。


 まず、とらふぐと下仁田ネギから。ともに一度揚げて、銀あんをかけたものです。この日(3/2)は寒かったので嬉しいスタートでした。ちょっと重いかなと思いきや、胃がぬくんで食欲がわいてくる。良いふぐだったなあ。



 続いて椀は葛をうった大穴子と椎茸、お出汁が素晴らしい塩梅で、さらにネギの切り方の美しさ、その歯ざわりのよいこと。切るって技術ですね。久々に思い出しました。単に細く切ってあっても、こういう歯ざわりになっていないものがほとんど。



 お刺身は金目鯛、菜の花を添えて。良い香りのするキンメでした。
 またこの本わさびが…うまいんだ。広島のお酒『雨後の月』を燗にしてもらったのですが、わさびをつまみにして次のお料理を待ちました。わさびなめなめお猪口を空ける私を見てご主人、
「わさび、つまみになりますよねえ。私も大好きです!」
 ふふふ。

 こちら、ご夫婦でやられているお店なんです。他に従業員のかたはいらっしゃらない。この時点では、まだ客も私のみでした。

 おふたりがね、とてもこう…品が良いのですよ。それもすました「お上品」ではなくて、純朴にひとの良い感じ。含羞という日本のうつくしい言葉を思い起こさせるような、初々しいおふたり。
 見習いたいものだ…。


 ぐじの松笠焼き、揚げふきのとう添え。しっかりと器もあたためられて。同じようなお値段のお店でも、こういうことやらない所って、案外多いものです(ちなみに、昼のコースは5千円)。

 ぐじだ大好きなので、いただけて嬉しかったな。うろこパリパリの食感のたのしさ。しかし私、思わず言ってしまいました。
「ああ…この頭があるのですよねえ。いいなあ…」
 はしたないね。でもさぞかしうまかろうと思ったのです。ご主人いやな顔ひとつなさらず、
「ええ、頭は…お出汁張って吸い物にしていただきますよ(笑)」
 うーん…それも食べたい。(;´∀`)通ったらいつか出して下さるかな…。


 揚げものは海老芋。「香ばしい」という言葉はこのぐらいの揚げ具合じゃないと使っちゃいけないなあ。カウンターに座ったのでご主人のお仕事一部始終を拝見できましたが、柚子を切るさまにほれぼれ。一連の流れに無駄がなくて、実にきれいなんだ。


 ごはんがまた結構でした。
 おいしい福島産のお米、そして素晴らしい赤だし。私、赤だしってあんまり好きじゃないと思ってたんだけれども、こういうのをいただいたことがなかっただけでした。嬉しい出会い。ごはん、おかわりをすすめられたのだけれど、腹八分目にしておきたくて断ってしまった。今思い返して、やっぱりおかわりしておけばよかったなとプチ後悔。
(−ω−;)
 夜のコースだと炊き込みごはんになるそうです。知人はこの炊き込みを絶賛。


 この香の物の美味しかったこと! たくあん、こういうひと手間すると違いますねえ。


 最後に水菓子、グレープフルーツのブランデー漬け。お口さっぱり。ごはんのときに番茶、甘いもののあとに煎茶を入れてくださいますよ。


 ああ…満ち足りました!

 充足感。多分帰り道、にこにこしていたと思う。あの味に、あのおふたりに会いに、またうかがいたい。それにはしっかりお仕事して稼がねばね!
 そんな気持ちにもなれるお食事でした。美味しさは人を前向きにさせる。