日の丸


 鱧というのは、どうして今一東京で根付かないのだろう。
 京料理のお店では夏のスターだけれども、それ以外のお店で供されることは殆どない。食材としてお安くない、骨切りという特殊な技術……それだけの理由なんだろうか。
 知らない街に行くたび、スーパーや市場をのぞいてしまう。大阪では、パックになった鱧が山と積まれているのに驚いた。湯引きの鱧がチューブの梅と一緒に売られている。
 京都の錦小路をちょっとまがったところの魚屋では、水槽に獰猛な顔をした鱧がウニョウニョと泳いでいた。鋭い歯が恐ろしい。それがスーッと包丁であっという間にさばかれ、うつくしい料理へと変化する。はんなりとした京都人の芯の強さをみるような気がした。と、これも田舎ものの一方的なファンタジーだけれど。


 これだけ流通がよくなっても、断固として「ご当地」から動かない土地のものは数多い。日本人は遥か遠くヨーロッパやアジアからは、本場の味なんとか日本で提供しようとあれこれ苦労するというのに。
 泉州には玉葱と鱧で作る「魚すき」なるものがあって、えらくうまいんだそうだ。ああ、食ってみたい。
 


(銀座のvelvia館「方寸」にて)