恋しや鱈・タラ・たら

 

 そういえば冒頭の北海道のカクレ家に初めて行ったとき、鱈の洗礼を受けた。魚屋さんから勧められて買ってきた大きな鱈一匹。
「こんな大きなの食べきれませんよ」と言ったら、
「美味しいから騙されたと思って食べてご覧なさい。こっちでは身も皮もそっくり鍋に入れて食べます。特に皮はゼッタイに捨てないでください。食べてみればわかりますから」
 そうして、なんとまあ本当に、これがあの我々が今まで食べていたのと同じ鱈か?と驚くほどの美味しさだった。特に鍋の汁の中に溶けかかった鱈の持つねっとりとした質感が、北の国のつんと冷えた空気の中でじんわりとあつくからだの隅々までひろがってくるのだ。

椎名誠著 『いっぽん海ヘビトンボ漂読記』49ページより 本の雑誌社 2003)

 

いっぽん海ヘビトンボ漂読記

いっぽん海ヘビトンボ漂読記


 信じられないでしょう。
 鱈(タラ)、というとこれからの鍋物の季節につきものの白身魚。安い居酒屋のそれなんて、いっちゃわるいが「スッカスカ」で「パッサパサ」なイメージである。「旨味の濃い魚なんて想像できるかーっ!」って方も多いだろう。ちなみに旨味の濃い銀ダラはタラの仲間ではなく、あれはカサゴ科なんである。


 椎名誠さんの本を読んでいたら……ああ、うらやましくて、くやしくて。
 本当の鱈の味を食べてみたい! 知りたいよお!!
 漫画『美味しんぼ』でも鱈がいかに旨いかが、以前描かれていた。鯖の生きグサレ、などと俗に言うけれど、本当に旨味が抜けやすく冷凍保存が難しいのは鱈なんではないだろうか。急速に死後劣化して旨味が抜けていくんだそうだ。
 どの筋の人に訊いても「鱈は現地でないと」なんていうのだ。ああ憎たらしい。


 「タラ貯金」をはじめようと思う。この冬、いつかは北海道へ。