新橋『四季のおでん』


 大田垣晴子さんに教えてもらったおでん屋、新橋の『四季のおでん』へ。
 最近、とある仕事でおでんを食べ歩いているんですわ。
 安くてうまいおでん屋を探せ、というミッションなのだけれど、「おでん」ちゅうものはなんなのか、ってスタートラインを考えるにだな、どーにも確としたモンがつかめずにいるんだなあ。


 おでんって、なんちゅうアブストラクトな言葉であろうか。本当に千差万別、千変万化、百花繚乱。なんだかもう「おでんラビリンス」に入り込んじゃったような気持ちだよ。ジェニファー・コネリーの映画でなんとかラビリンスってあったな。ラックスというシャンプーのCMに出ていた。あの頃は本当に可愛かった……そんな逃避をしたくなるぐらいおでんは無限だ。


 「おでん」ってなんなんだろうね。


 煮ものとおでんの一線を引くものは何か。


 おでんをおでんたらしめるものはナンなのか。


 おでんみてーなものを食べつつ難しいことを考えるのはチイとも合わないなあ。「ブーケガルニ」とか「タイム&セージ&ローズマリー」みたいなものが入ってるよーな食いモンじゃないと思索は似合わないような気がする。でもねえ、おでんというものは、「何が入ったっていいじゃん」と思わせつつ、厳として「このへんのライン以外はおでんに入れてはならぬ」みたいな不文律がある気がするんだねえ。


 話は突如冒頭に戻る。
 ここのおでんはえっらい旨くて、「高いだけのことはある」と実感させてくれる店でした。写真なんざ「鱧と松茸のおでん」でっせ。これも「土瓶蒸しの土瓶抜きじゃねえのか」と思わせつつ、しっかり「おでん」なんだよなあ。梅肉がつゆにギリギリのところで入らない。つゆの味とケンカするんじゃないか、と思ったけれど交わらないことで気にならない。
 ひとつひとつ仕上げに味つけを替えて楽しませてくれる店。それでもやっぱり「ああ、おでんだわ」と思えるんだよねえ。



 蛸のおでんには生山椒が。このつぶつぶで日本酒が二合はいける。このジャパン独得のスパイシーを味わいつつ、おでんを食うたび「こんにちは高橋お伝です」と毎回いう編集のフジサワさんを僕は思い出していた。



○私信
K先輩本当にごちそうさまでした。