分とく山で独酌

日の丸


 人に会いたくて店に行く。
 究極、何が食べたいというよりも、その食べ物を出してくれる「あの人」に会いたくて、私は店に行っている。
 直接話せなくても、いいのだ。そのひとの語りと心は、すべてお皿に載っている。
 新宿・伊勢丹の『分とく山』の板長、今村茂正さんの、私はファンだ。面白くて豪胆で、調子がいいけど実直で、サービスマンとしても一流の彼に会いたくて、たまに私はここへ来る。


 ひとりで懐石なんて……という向きもあろうが、そういうひとは、お皿と対話できない人だ。私は皿と語れる。おいしいものはやっぱり誰かと、という意見はもっともだけれど、おいしいものを一緒に味わえる友というのはなかなかいない。
 私は折角のおいしいものを熱いうちに、冷たいうちに頂きたいと思っているときに突如、「うちの上司が・妻が・夫が・母が」なんて話や仕事の話をされると、料理に冷や水かけられたような気持ちになってしまう。とりあえず熱いうちに食べようと箸をのばすと「ちょっと聞いてるのォ?」なんていわれて、さらにガッカリ。
 おいしいものをサッといいうちに頂きつつ、会話も楽しめる人というのは、稀だ。



 板長さんのお仕事は、メニューを考えることがまず第一。
 最初の写真はお椀。鮎100%の真薯が、ああ、うまかった! なめらかで口の中で「ふうわり」と消えるのに野趣がある。それに香ばしくあぶった舞茸、肉厚で歯ごたえのあるきちんとしたじゅんさいが華を添える。ちなみに山芋を使うものだけを「真薯」と呼ぶから、ちょっと変な書き方なのだけれど、鮎団子というのも感じが違うので、一応これで。


 刺身はわがままをいって薄作りに。今日は平目。



 アワビはここの名物、肝のソースをたっぷり使った磯焼きよりも、茶碗蒸しのほうが私は好きだ。淡雪のような口ざわり。訊けば玉子とお出汁を1:1で作るのだという。



 


 最後のご飯は日替わりの炊き込み、今日はトウモロコシと帆立。おかわりをすると「おこげ」が出てくる。