海苔巻き

ひのまる


 

 池部良さんのエッセイ集『食い食い虫』(新潮社 1998)を読んでいたら、どーにも海苔が食いたくなってしまった。
江戸前の新海苔」と題された話には、小学2年生だった池部さんの海苔の思い出が記されている。
「大森・羽田の沖で採れる海苔が、何たって極上」と思い立ったらすぐ食べたくて仕方ない、そんな江戸っ子父さんのいいつけで、家から40分も歩いて大森の海苔屋におつかいに行かされる話。
「青紫に、いい色が出ている。匂いも冬を思わせていいじゃないか」
 十日前に採れたという新芽のものの作りたて、それを炭火で炙って、親父さんは目を細める……そんな情景を読むうちに腹が減った。
 ちょうど炊き立てのめしもある。あ、親が送ってくれたウニの佃煮を巻いて食べてみよう。
 旅館の朝食に出てくるような味つけ海苔しかないけれど、エッチラ巻いてみた。


 見かけはご覧のとおり最悪だが、どーにもうまくて、日本酒がほしくなって、ほしくなって、困った。ご飯が新潟は新発田コシヒカリ、ウニの佃煮は青森県八戸大字鮫町産、柚子と一緒に炊いたもの。上陸したての火星人が巻いたってそりゃうまいわ。
 米は母の、佃煮は父の故郷の味だ。
 なんだか食べてるうちに「早くしっかりしておくれ」「いくつになったと思ってるんだい」などと一粒一粒にいわれているような気になってきた(さっきまで時代劇を観ていたので、心の母が変な口調になっているのです)。

 おなか一杯のうちに、寝よう。