銀座 『ライオン七丁目店』

日の丸


 銀座の真ん中にあるビヤホール、「ライオン銀座七丁目店」。
 昭和9年生まれ、今年でちょうど75歳。終戦後、6年間GHQが接収していたというこのホール。高い天井が気持ちいい。モザイクの絵壁、ゴシックな感じの太い柱、店員さんのオールドファッションな制服。
 古い日本映画の光景が重なる。そんな店が、銀座には多かった。



 千疋屋の古いビルは、多分今の博品館の手前ぐらいにあったと思う。そこの2階だかにフルーツパーラーがあって、そこのモダンなつくりには驚いた。本当に、昔の映画からそのまま出てきたようだった。昭和30年代の東宝映画がなぜか心に浮かんだ。今にも、奥から白い手袋の司葉子が颯爽と歩いてくるかのように思えた。
 内装の美しさを聞いて、大学1年のときに訪れたんだが、女の子とふたりでメニューを見てまた驚いた。私たちの財布には、ちょっとつらい値段だった。フルーツの盛り合わせを、正直に「ふたりで食べていいですか」とたずねた。初老のウェイターさん、十朱久雄をもっと日本風にしたようなその人は、「どうぞ」と、まったくイヤミのない笑顔で腰をかがめた。あのときのホッとした気持ちは、まだ確かに思い出される。
 名画座の『並木座』、そして大好きだったビアレストランの『ピルゼン』。今のビルの前の『資生堂パーラー』のティールームで母と食べたケーキのクラシックな味。
 みんなもう取り壊された。