お茶漬けの味


 お茶漬け、というのも人によって千差万別だろう。多めによそってしまい、どうにも持て余したご飯を流し込むためにお茶漬けにする人もいるだろうし、しっかりと山葵をおろし、塩鮭や粕漬けをわざわざ焼く人もいるだろう。
 歌舞伎の定式幕にならったデザインでおなじみ、永谷園のふりかけ。あれこそが、「お茶漬け」と思っている人も多いんじゃないだろうか。
 ウチでも、一時はやった。私が小学校3、4年の頃だから、もう23年前ぐらいか。
 なぜか、浮世絵のカードが入っていた。北斎や広重といった方々の絵が、黒・緑・柿色の包装から出てくるのは、何となく分かるが、そのうちゴッホのカードまで出てくるようになった。ネタが尽きてヤケクソにでもなったのだろうか。そういえば、日本の損保会社がゴッホの「ひまわり」を超高値で購入したのも、その頃だった。


 不注意で、白いご飯を乾かしてしまうことがある。炊きっぱなしにしてしまったり、早く冷凍すればいいものを、ちょっと冷蔵庫に「いれっぱ」にしてしまったり。表面の水分が飛んで、いかにも硬そう。まずそうだ。チャーハンにもいかがなものか、と思われるときに、たまにお茶漬けをする。
 濃い目に緑茶を出す。ご飯の上に浅利の佃煮を数粒乗せ、たっぷりお茶をかける。しばらく置いて、ギュウと縮こまった浅利が大きくひらいたら、出来上がり。さっきまで長湯したおばあちゃんのようだった米粒が、ふっくら膨らんでいる。 
「江戸一」の「浜だき時雨あさり」が気に入っている。大きめに切られたショウガの歯触りもいい。よければ一度、お試し下さい。


(文=白央篤司)