浅草・色川の「手」

この手に、見惚れた。

浅草の鰻屋「色川」は雷門の程近く。
入り口の脇から威勢よく煙が昇り、いいにおいが風に乗る。
引き戸を入れば、すぐ隣が焼き場。
私はその焼きのリズム、タレにサッと付けてまた焼く動きの無駄のなさ、
そしてうちわの「音」に、まず引き込まれた。
そしてそれらすべてを司る「手」に、引き付けられた。
この写真は、ここのおやじさん・色川正則さんの「手」。
取材でお邪魔したときに、我儘を言って撮らせて頂いた。


手早く、よどみなく動く手。
熱さなどものともせず、火を操るその手。
何十年という月日が鍛えたその節くれだった指、硬そうな手の「はら」。
この手に掛かって、鰻がどんどん旨そうに変わっていく。
赤い炭の上で、タレをまとった鰻がじゅうじゅうと泡吹き、ごちそうに変わっていく。


鰻はもちろんだけれど、肝焼きがたまりません。
私見だけれど、私は山椒というものは
この肝を食すときのみに使うものだと思っている。
山椒は鰻の香りと味わいを損なう。
仕事の悪い天然鰻は山椒がほしくなるけれど。


奥さんがつける糠漬けも、また旨し。
お吸い物にとろろこぶが入っているのも、ご愛嬌。