秋刀魚の味


 先日、毎日新聞を読んで知った句。
「江戸の空 東京の空 秋刀魚買ふ」
 うーん、いいなあ……好きだなあ! これぞ俳句の妙、一瞬にして現代から大昔へ飛ぶ楽しさ。たったこれだけの文字で、いにしえと今が繋がる面白さ。
 蝉の声を聞きながら、空を見上げてみる。この下で、江戸の人もサンマを買ったのだ。そして、私たちもサンマを買っている。新サンマが並んだときに感じる気持ちは、やはり独得だ。「あ、サンマだ」と思う。食べたい。けれど、どーしても食べたいという感じでもない。なのに、焼きサンマが食卓に二日、三日とあがっても、さして苦ではない気がする。江戸の人も、そんなふうに思ったんじゃないか。
 スーパーに行った。腹の青い、きれいなサンマがいた。目も、きれいだった。あのハラワタのほろ苦さが、口に広がる。ちょっとツバが溜まって、大根おろしの爽やかさを思う。そして、焼き台の掃除の面倒くささを思いつつ、やっぱり買ってしまう。
 江戸の人々はサンマの並ぶ季節に、何を思ったのか。少なくとも、焦げを気にしたりは、しなかったのだろうけれど。