カキ氷


 いつ頃だろう、カキ氷が変わってしまったのは。いつからか、カキ氷とは名ばかりのクラッシュアイスの塊が、カキ氷と称して売られるようになってしまった。「フラッペ」なんていう、昔同級生だった富良野君のあだ名のようなシロモノが出た頃からかもしれない。
 昔ながらの、刃物で氷を削いでつくるカキ氷が好きだった。あれは、花火と似たようなうつくしさがある。カキ氷を食べる楽しみというのは、本当にわずかな間しか存在しない。口にした瞬間、シャリという音と共に崩れて消える、あの感触。あの口消えの潔さと歯触りの面白さは、カキ氷にしかないものだ。
 カキ氷を食べるのは難しい。がっつくと、必ずポロポロ頂上付近をこぼしてしまう。悲しいことに、一番うまいのも頂上付近だ。いくつだったか、はじめてカキ氷をこぼさずに食べれたときの嬉しさを覚えている。すこし大人になれたようで、誇らしかった。まだ十(とお)にもならない頃だったと思う。
 すごくない、と笑う僕の顔を見て、母が笑った。何かと思えば、舌を指差す。鏡を見たら、ベロがメロンシロップで真緑に染められていた。そんなことが、たまらなく愉快だった。
 写真は宇治。金時にするか、白玉をつけるか迷ったが、シワンボウな気持ちが働いて、宇治だけにした。久しぶりに旧来のカキ氷を食べたら、そんないろいろが思い出された。
(新宿 追分だんご本舗にて)