西麻布「キッチン」のムール貝の蒸しもの

 前回、ムール貝について少し書いたが、それならこの店にも触れないわけにはいかない。西麻布「キッチン」、ベトナム料理店である。ベトナム料理好きには説明不要の人気店、店が大きくないこともあるが、予約が非常に取りにくい店でもある。
 それも納得、美味しいだけの店ではない。私の信条、「味×清潔感×人あたりの良さ」これが存分に感じられる店だ。それも卑屈なサービス精神や、付け焼刃の「あしらい」の良さではなく、にじみ出る人間性の良さが、居心地の良さを生んでいると思う。あそこまで柔らかく、そして嘘くさくないサービスもそうそうない。
 写真は「ムール貝の蒸しもの」。こう書くと簡単だが、最初にフタを開けたときの驚きは忘れ難い。ムールと共に蒸し揚げられた、レモングラスとコブミカンの葉。それらハーブの香りと、貝の匂い、潮の香り……すべてが渾然一体となって、未体験の嗅覚的興奮をもたらしてくれる。貝の貪欲なまでの強い旨味を、さわやかな柑橘の香りが包む。すると、なんとも不思議な相乗効果がうまれてくる。知らなかった味わいを体験できるほど、嬉しいことはない。
 これ以外でも、全部美味しいです。嘘をつきました。まだメニュー7割ぐらいしか食べていません。また予約、粘って取らなくちゃ。