貝に溺れる〜池尻「おわん」にて

 前世というものは信じていないけれど、敢えて「なんだったと思う?」と訊かれたら、「ラッコ」とこたえる。それほどに、貝が好きだ。これをいうとドン引きされることが多いが、生牡蠣など3ダース半食べたことがある。(こういうとギャル曽根よろしく、競争のように食べたとイメージされるかもしれない。違います。ひと夜かけて、お酒を楽しみながらです)
 青柳、赤貝、みる貝、それに大好きな平貝にムール貝……貝の味は玄妙にして千差万別。その食べ方も色々だ。
 赤貝なら、ひもを千切りにしたキュウリとゴマで細巻に。これで二合はいける。ムール貝、これは曲者。スペイン料理のタパスの定番だが、白ワイン蒸しなど、どうしてこう美味しくない店が多いのだろう。尚且つこの料理は、自分の「運」を見せ付けられるような、やるせない料理でもある。貝の大きさは時の運、熱に負けて口を開けば、成熟太身の貝など10個中2〜3個もないことがある。「よくも食べやがったな」とばかり、ムールの呪いかと思うほど。このハズレが少ない良店が、以前も紹介した四谷の「ママス&パパス」。
 長くなった。さて、写真は池尻の「おわん」で食べた大アサリ。一片が、赤ちゃんの握りこぶしぐらいある。ダシ醤油でサッと味付け、がぶりと頂く。しふく……漢字ではなく、ひらがなで、しふくぅ……。この旨味が消えないうちに、ぬる燗を注ぎ込む。またさらに、し・ふ・く・ぅ……。言葉もない。どこの浜だったか失念したが、確か愛知県産だった。なんと凄いものを海は造りだすのだろう。
 このお店も、私が信条とする味のよさ、人のよさ、そして清潔感のある店です。