大石プラム


 夏の一番のごちそうというのは、よく冷やしてザッと洗っただけの、生野菜や果物じゃないかと思う。素手でかぶりつき、あごに流れる汁をも気にせずに頂く。キュウリにトマトはもちろん、手でざっくり裂いた水茄子などがあれば尚うれしい。スイカの種を皿ではなく、大地に吹き捨てたのはいつ以来だろう。
 写真は大石プラム。大石、というのは人の名前で、この甘みと水分の強い品種を作り出された大石俊雄さんという農業家の方に由来する。福島県文化功労者であったそうだ。
 これを食べないと私は、夏が来た気がしない。どなたにも何かひとつ、そういった類いのものがあるんじゃないだろうか。特に食いしん坊は、ひとつに限らずそういったものがあるだろう。寿司ならシンコ、天ぷらのギンポ、鱧に鮎に、秋の茸……などなど。夏は、みずみずしい果実や野菜がいい。
 大石プラムは小さい実に、驚くほどの果汁を備えている。小さい頃、よくプラムを食べてはシャツにシミを作り、母に怒られた。ベトベトになったTシャツや手ぬぐいを、母は「一日に何度も洗濯したって追いつかないわ」などとブツブツいいながら、洗っては干していた。三時のおやつに食べたプラム、夕方に干される洗濯物。そんな情景が、ふと思い出される。よく汗をかき、水気の多いものを食べては衣服をぬらす夏。乾きが早いのが救いだが、自然はうまく出来ている。