京都 「菊水」

 京都四条大橋のたもとに、菊水というレストランがある。ここの屋上がビアガーデンになっていて、その取材でお邪魔した。清水寺のそばで育った友人が「とても眺めのいい店だから」と推薦してくれ、うかがうことにした。
 屋上といっても4階だ。東京の感覚で4階と聞くと、見晴らしがいいどころか、見えるのは隣の壁ばかり、と思われる方も多いかもしれない。けれど私は、夕暮れ時の菊水にうかがって、息を呑んだ。
 鴨川から先斗町をのぞむ風景が、「わがもの」にできるのである。川沿いには二階屋ばかり、4階とは信じられないほどに、景色がいい。特に夕暮れ、空の色が次第に紫がかるころが美しかった。すだれのかかった先斗町の料理屋が明かりをともす。これがまた、無粋な蛍光灯など一軒もない。夏の風物詩である川床(かわゆか)が人で賑わいだし、その明かりが川面に映る。しばし呆(ほう)けて見つめていれば、スーッと一羽の鷺が川に舞い降りた。出来すぎだな、そう思った。これは電通京都市が共同でこしらえたホラグラムじゃないだろうか。
 取材中の私は、川向きの席に陣取ったサラリーマンがグビグビとビールを飲む干すのを見て、嫉妬した。

 

昼間の眺め。これが

 

こうなります。隣は南座。思いっきりブレていてすいません。
 


 こちらの専務、Hさんは非常に通人でらした。なんとなく勘が働いて聞けば、常磐津をたしなんでらっしゃるという。古都らしく、旦那衆もきちんと生き残っているのだなあ。私は失礼を承知で、興味あるお茶屋のことなどあれこれ訊ねてしまった。いろいろ不躾なことを伺いまして、失礼致しました。川を直接望める席は限られているので、7〜8月は必ずその旨伝えて予約が望ましいとのこと。